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薄暗い部屋。今日はふたりで、家でゲームでもしようと誘われ、祭牙の家にお邪魔していた。
彼いわく、祭牙のお母さんは友達と遊ぶ約束をしていて不在らしい。親父は仕事、と言った時の苦々しい顔からして、あまり父親との仲は良くはないようだった。そんなホイホイ家庭の事情には踏み込むまい、と、静かに頭の中でフタをして、おれは改めて問うた。
「ごめん、なんて? もう一度言ってくれよ」
「転生だ」
祭牙はバカ真面目な顔をし、言った。「転生、できる、ゲーム」
「ゆっくり言われてもわかんねぇよ!!」
思わず大声を上げてしまった。祭牙が、大きな切れ長の目をゆっくりとしばたたく。
「そうか。頭の良い未継でも、わからないことがあるんだな」
「煽ってんのかてめぇ……」
祭牙が、きょろり、とあたりを見渡す。
「まあ、とにかく、起動してみるぞ。俺実はな、転生とか、小さい頃からの夢だったんだ」
目がきらきらと輝いている。気のせいか、彼はいつもよりも数段早口だった。ワクワクしているのか、その両手は小刻みに動いている。
「俺、なんのジョブになるんだろうな。本当に、胸がドッキドキだぜ」
「大丈夫なのか、それ……?」
怪しすぎるだろ。
パッケージを手に取り、じっと眺める。幾分、素人臭いデザインだった。ショップに流通してたとしても、まず確実に手に取らないタイプの奴だ――そんなことを思っていると、
「あ! ついた! ほら、ここに手を乗っけて」
と言い、謎のデバイスを示される。
「え、ええ!?」
謎の専用?デバイスまで付属してんのか……、なんかやけに本格的で、ちょっとコワいな、など思いながら尻込みしているうちに、
「ほら、早く」
「あっ……」
温かい手が、おれの手の上に重なる。
想像していたよりも固くって、たくましい手の感触にどきりとした、――その、刹那。
ピロピロピロ〜ん、という、なんとも形容しがたい電子音が鳴り響き、人工音声。
「よ〜〜〜こそ! ンでは、ゲームを起動しまっス☆」
わけのわからないくらいにハイなテンションのオジさんのはしゃぎ声が空間を埋め尽くし、……目の前が真っ暗になった。
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