ノット・ラン・アウェイ

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 ちょっ…………。 「どういうことだよ!? はッ? おれを、一体なんて?」  訊き返す。その間にも、また新しい敵が現れ、祭牙に向かって飛びかかっていく。 「お前、狂戦士(バーサーカー)の説明、読んでるか」  少し考える。読んでない。 「このジョブに、俺は、転生したんだがなァ……これは、レベルが上がれば上がるほど、敵と味方の区別がつかなくなってくるんだ」 「ウソだろ」  そんなことある??  なかなかヤベぇ難点じゃねえか。 「ちなみに、おれは何?」 「へなちょこ勇者だ」 「へなちょこ勇者」  その修飾辞ごとジョブ名? 「そうだ。自分の装備を見てみろ、銅の剣に鋼の盾。弱いこと請け合いだ」  悪かったな。 「だから、俺はこうして、離れたところで戦っていたのだ」  モーニングスターを軽々とさばき、相手の眉間へとクリーンヒットさせる。モンスターが霧状になって消えたところで、祭牙が振り返った。  その目の暗黒度合いが、さっきより増している気がする。 「ずっと戦っていた。ここら一帯のモンスターを殲滅し尽くすまで、ひたすら」静かに言う。 「そして俺はいま、一〇〇レベル――このゲーム内での、最高レベルに到達した」 「うせやん」  いや、流石にウソだろ!? 「おれが寝てるあいだに?」 「長く眠り過ぎだ、お前」  このゲーム、結構、プレイヤーにかかる負担が大きいそうだからな。未継の体質には、おそらく 合わなかったのだろう。  はァ、とため息をつき、頭を抱える。そのままこちらに視線を向けた。 「寝てる未継を起こさないよう、わけのわからんモンスターなんかに指一本たりとも触れさせないよう、俺、頑張ったんだぞ。ほめてくれ」 「祭牙……」  祭牙がにこり、と笑う。 「これで、お前が安心できるのなら――」  言葉が止まる。長い沈黙。  祭牙の表情が固まって、ゆっくりと引き攣れていく。 「……祭牙?」  呼びかける。それに応えず、彼は無言のままに自らの顔を覆った。 「どうした……?」  手が、ゆっくりと外れる。  ――暗黒。  その目からは完全に、正気のハイライトが消え失せていた。
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