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「み、……つき」
祭牙が、一歩、こちらとの距離を詰める。
おれは唾を飲み込み、次の言葉を待った。
……まさか。
モーニングスターを握る隆々とした手に、太く青い血管が浮かぶ。
「大好きだ、みつき」
一歩また、距離を詰める。
しゃりッ、と、棘が地面に擦れる音。
「お前を殺す。俺の血肉となってくれ、みつき――なあ、永遠に、一緒にいよう」
爆発的な速度で踏み込まれる足。
おれは数歩後ろに向かってたたらを踏み、……全速力で逃げ出した。
◇
そして冒頭である。
後ろを、ちら、と振り返る。
長いこと走って体力を消耗したからか、祭牙の目には幾分光が戻って来ていた。おれの名前を、繰り返し呼んでいたさながらモンスターのような発音も、かなり人間らしいものに戻っている。
……でも。
「待ってくれ、未継! 痛くないから! ちょっぴりチクッとするだけだから!」
目的が変わってないのが不味いんだよなあ!
とりあえず、「そんな、注射みたいに!」と、あまり出来の良くないツッコミを返しておく。
(走るのが趣味じゃなかったら即死だったな)
これでも体力はあるほうだ。
しかし、それもだんだん尽きつつある。呼吸も乱れてきたし、肺が痛い。
持ち慣れない銅の剣と鋼の盾がバカ重い!!
「あんだよコレちくしょー!!!」
一気に後ろに向かって装備を放り捨ててしまいたくなったところで、
『エンカウント!!!』
耳をつんざくオジさんのはしゃぎボイス。
――背後に、目をやる。
毒々しい紫色をしたスライムが、おれに向けて
汚ねぇツバを吐いてきていた。
「うえッ……!」
「未継!!!」
祭牙の叫び声。まともにそれを食らってしまい足がよろめく。
(やべぇ――毒だ)
がくり、と膝が折れる。
(あたまが……がんがんする)
ぐるぐると回る視界。草原に倒れ伏す。
地面の振動がだんだん近くなってきて、祭牙の声。「未継!」
ああ、もうだめだ――なかなかはたらいてくれない頭で、ぼんやりとそう思う。
しゃがみ込む気配。思わず、ぎゅっ、とかたく目を閉じる。
すると、
……くちびるに、やわらかい感触があった。
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