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ちゅう、と、パキッと折って食べるアイスを、吸うときみたいな音。
頰が熱くなっているのはきっと、さっき受けた毒の効果では、ないと思った。
おそるおそる、目を開ける。
すこしだけ苦しそうな祭牙の顔が、ゆっくりと離れていくところだった。
眉を寄せ、おれに問う。
「――大丈夫か、未継」
「祭牙。いま……」
「ふう。まさか、こんな形で、ファーストキスを済ませる羽目になるとはな」
彼の頬にそっと、触れる。微かにあつかった。
「毒を吸い出した。あれは精々、十五、六レベルくらいのものだろう。俺にはさほど効かん」
軽く頭を振り、笑顔を見せる。
「触れたことで多少、心がやわらいだ。なあ。――しばらく、腕の中に居てくれないか」
「……」
おれは祭牙の目を見る。そこにはもう、先ほどまでの黒ぐろとした闇は渦巻いていなかった。
「軽いものではあるが、状態異常になったことにより、通常の思考ができなくなっているんだ」
祭牙が説明した。
「もちろんここで言う通常とは、敵味方区別なく殺す、という、狂戦士としてのもののことだ」
「通常、の使い方あべこべじゃねえか……」
なんとかツッコミを入れると、祭牙は「本当、そうだな」と言って微笑む。
「良かった。……取り返しのつかないことをしてしまわなくて」
目がきらきらと光っている。おれはそれをしばらく見つめ、綺麗な涙だ、と思った。
「……なあ。未継」
何か言いかける。それに耳を傾けていたとき、
「やあやあ!」
聞き馴染みのある声が、後ろから会話に入ってきた。その音量に肩をすくませ、呟く。
「――ハイテンションオジさん」
そう、このゲーム内で度々聞こえてくる、あの声と同じものだ。
祭牙が、苦虫を噛み潰したような表情をして、そちらに向き直る。
「…………親父」
「え。祭牙の、――お父さん?」
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