1人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうです。どうぞ、お見知りおきを」
優雅に礼をして、お父さんが微笑む。その顔はまさしく祭牙の父親という感じのする、瓜二つの造形だった。
ただ、おれの親友からもうちょっと生真面目さとか実直さをマイナスして、おちゃらけさとか、良い意味での小悪魔さ?を、かなり、盛り盛りにプラスしたような風体だったけれど。
実際、よくわからない英字のプリントされた、ヨレヨレの原色Tシャツに、生地がゴリゴリ擦り切れた細身のダメージスキニー、という出で立ちからして、大真面目な企業構成員じゃないことは明らかだろう。さらに、ゆるく縛った腰まである白髪は、確実に一般企業の就業規定から逸脱している。
「しかも、たぶんいま、時間が経ってなければ、平日の夕方だし。……なあ、訊いても良いのかは分かんないけど、お父さんって、……何の仕事、してるの?」
「ああ……」
祭牙は頭を掻く。横からお父さんがぴょこッ、と身を乗り出して、
「わたしは、正刈綵花。フリーランスの、ゲームクリエイターだ。今後とも、息子ともどもよろしくね」
にっこりと、人なつっこく笑う。祭牙よりも、いくらか、線の細い感じのする笑みだった。
「この笑顔に騙されるな、未継」
祭牙が、今にも唸り出さんばかりに眉間に皺を寄せる。
「こいつはこう見えて、悪魔みたいに酷い性格をしているんだ。ひとを困らせて、それを鑑賞しながらゲラゲラ笑うのが趣味みたいな奴だからな」
「そうなの……?」
なんで祭牙みたいな子が生まれたのか不思議になってくるな、それ。
そんな、直接口に出したら照れるようなことを考えていると、お父さんが「おいおい」と呆れたように口を挟んだ。
「人聞きの悪いことを言うなよ、マイ・サン」
「その呼び方、やめろって言ってんだろ。痛いんだよ」
祭牙が顔をしかめる。お父さんは「ふ~ん」と言って今度は、「マイ・スイート・サン?」と、ニヤニヤしながら訂正した。
「より悪くなってますよ、お父さん」
「おや。それ、わたしが所帯持ちのおっさんって言われてる気分になるからやめてくれるかい? 気軽に綵花さん、と呼んでくれ。年上の愛人でも呼ぶ感覚で☆」
「ブチ殺すぞ!!!」
「おおうっ」
ばちこんッ、とウィンクを決めようとしていた綵花さんが、びっくりしたようにぴょんっ、と、大きくその場で跳ねる。
「ひどいなあ。実の父に向かって、その言い草はないんじゃないか?」
「言って良いことと悪いことがあるだろう、クソ親父」
「そうかそうか」綵花さんはうんうん、と大仰にうなずく。
「フレンズ以上に、我が息子はキミのことが好きみたいだね、みつきクン」
にこりと笑い、パチン、と指を鳴らす。
「――では、最後のクエストだ」
次の瞬間、おれは大きな鳥かごの中にいた。
「よっこらせっと」
おれごと鳥かごを抱えた綵花さんの背には、――巨大な、白い天使の羽根。
「さあ、愛する息子よ。想い人のこの子ごと――可愛い父親をつかまえてごらんなさい?」
キャッチ・アス・イフ・ユー・キャン。
最初のコメントを投稿しよう!