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◇
「クソ! 待ちやがれ、クソ親父!!!」
フザけたセリフを残し、親父――綵花の姿が、音速に乗ってブレる。
ただ、その飛行(またの名を非行)は、長くは続かなかった。
「あれ。……あらららら」
あまりスピードが出せないみたいだねえ、この種族――俺の頭、スレスレくらいの高さを、滑るように滑空しながら、綵花が不満げに言う。
「せっかく、わたしに相応しい『超ハイパープリティエンジェル』のジョブを独自実装したのに。飛行メソッドのオーバーライドを忘れていたか」
よくわからないことをブツブツと呟きながら、スロウな低空飛行を続ける。
「……オーケイ。俺はもう疲れた」
手に力を込める。
「お前みてえなクソ親父にはな、走る体力、それすらも勿体ねえ。今、ここから一歩も動かぬままケリを付けてやらあ」
「おお! だめじゃないか、そんなキタナい言葉づかいをしちゃあ」綵花がカラカラと笑う。
「やれるものならやってみなさい。ただね、――そのモーニングスターが飛来してきたときには、わたしはこのコを盾にするよ」
君の狂戦士としての怪力に潰されちゃったら、彼はひとたまりもないだろうねえ――くつくつくつ、と。悪役じみた笑い方。
(……ほんとうに、板についていやがる)
一つ舌を打って、今まさに振りかぶらんとしていたモーニングスターを地面に叩き付ける。
(腐っても、俺の親父ってわけか)
見通されている――あまりに屈辱的な事実に、思わず歯軋りをしてしまう。
「さあどうする? このまま上空から煽ってても良いかい? ――おっ」
おかしそうにゲラゲラと腹を抱えていた綵花の口の端から、つう、とドス黒い血が垂れる。
「…………おやあ?」
◇
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