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未継が、そのひょろい装備の武器――銅の剣を綵花の胸に突き刺していた。
「……」
綵花がゆっくりと口元を拭い、しげしげとその手を眺める。不思議そうに首をかしげた。
「なんで刺すんだい。親友の実の親を」
「さあ。おれにも分かりません」
未継は少し笑い、真剣な表情で言った。
「おれの友だちが困っていて、それをあなたが、さもおかしそうに笑っていたからでしょうか」
「ブラボーだ」ぱちぱちぱち、とおどけたふうに手を打ち鳴らし、穏やかに微笑む。
「良かったよ。君は、好きなひとのために怒れるひとで」
墜落していく身体。
鳥かごの扉が開き、未継は空に投げ出される。
「――『天使の加護』」
綵花が詠唱するのと同時に、自由落下していた未継の身体が、ゆっくりとした速度でふよふよとその場に浮かんだ。
「さあ、君たちは、感動の再会を交わしたまえ。わたしは……まあせっかくなので適当に、奈落に落とされた堕天使の気分でも味わうかね」
最後までフザけたことを言いながら落ちていく綵花。流石に心配になったので見守っていると、地面に激突する寸前で、
「やっぱ痛そうだからやめた。ゲーム内なんだしわざわざ、ツラくなる必要ないよねえ」
と瞬時に発言をなかったことにしていた。祭牙がこの父親を毛嫌いする理由がなんとなく、未継はわかった気がした。
スタッ、と華麗に着地し、「さて、ジャマ者はクールにこの場を去るかね」と上空を見上げる。いつの間にか回復したようで、胸の傷は服の損傷もろとも、綺麗さっぱり消えていた。血まみれになっていた口元まで、さりげなくきれいになっている。どこからともなく凝ったデザインの手鏡を取り出し、冗談めかして言う。「うん。今日も、相変わらず可愛いね、わたしは」
その姿が光の粒になって、散っていく。
「――ではでは〜」
未継はそれを見送りながら、ゆっくりと空間を浮遊する。走り寄る足音が、既に近くで聞こえてきていた。
名を呼ぶ声。
「未継!」
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