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「未継! なぜ逃げるんだ! 逃げないでくれよ!!!」
「うるさい!」
膝ががくがくと笑う。必死にそれを前へ前へと動かしながら、おれは先を急ぐ。
後ろからは、シャリシャリという金属と地面の擦れ合う音。……おれの親友の正刈祭牙が、エモノのモーニングスターを引きずる音だ。
「お前が死なないと、俺たちは一緒になれないんだ! なあ頼むよ、ひとつばちッ☆と、これに殴られてくれるだけで良いんだから!」
「出来るかド阿呆が!!!」
走りながら叫ぶ。息が苦しい。声がカスカスになってつらい。
しかし絶対に、捕まるわけにはいかないのだ。
アイツの腕の中に抱きすくめられたら最後、――おれの前には、ただただ厳然と、『死』が、待ち構えている。
なぜかって?
おれは一般的……いや、むしろ弱い部類の転生勇者で、クソへなちょこで。
アイツはそれとは比べ物にならない強さを手にした、――正気をなくしちまってる狂戦士だからだ。
◇
そもそもの始まりは、高校に入学したときだった。
同じゲームが好きなことが発覚して、おれと、アイツ――祭牙は一気に仲良くなった。
彼はもともと惚れっぽい性格だったらしくて、数週間、たがいに会話を続ける内に、……おれに好意を抱くようになったようなのだ。
実際に、その男らしい魅力まみれの美貌ゆえに周囲でギャッギャッとさわぐ女子たちを押しのけながら毎日、
「詩村! 結婚式場を探しに行かないか!?」
とかポンチなことを言ってきていたので、まあ、たぶんそうなんだ……と思う。
それだけなら、問題はなかった。おれだって、彼のことは少なからず、気の置けない親友であると思ってはいたし、結婚……?とかはともかく、これからも良き友でありたいと思っていた。
しかし、その矢先に、あの出来事が起こった。
◇
「未継。これを一緒にやらないか」
いつの間にかぬるっと変わった呼び方。とうの昔に耳タコの聞き慣れた声に、顔を上げる。
満面の笑みをたたえた祭牙が、手に持っていたゲームソフトのパッケージを、アゴで軽く示してみせた。
「……何? これ」
「知らないのか? いまオカルト的人気を誇る、『転生できる』とウワサのゲームだ」
「……ええ? 何だって?」
転生?
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