飼育員のオッサン、魔物に拐われて画家になる

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窓の外から轟くのは、近隣住人たちの怒号だった。 「ピィィッ!」 続けざまに響いたのは、ヒポグリフの咆哮だ。 私の住む町は、バーバトン公爵領の中心部で、魔物被害が多発している外縁部からかなりの距離がある。 こんな所にまで、ヒポグリフがやって来るとは……。 「ピィィィィ!」 「ピィィッ!」 「ピィピィ!」 羽ばたきの中に混じる鳴き声には、かすかな違いがあるように思える。 3頭、いや5頭。 ヒポグリフたちは群れをなして、ここまでやって来たのか。 「……それはないだろう」 それは、まずあり得ないのだ。 魔物の被害が多発してるからこそ、魔物が頻繁に出現する地域の守りは固く、見張りも設備も人員も万全の状態を保っている。 だから、公爵領の外縁から中心部まで飛来するのは、至難の業。 さらに言えば、飛翔先の町へと警告を発して、騎士や冒険者を予め動員するはず。 突然ヒポグリフが現れるなんて、あり得ない。 「……そんな、まさか」 窓に映るのは、月夜を駆けるように飛び回るヒポグリフがたちだった。 「なんで、どうやって」 あれは、どこぞのヒポグリフではない。 私だからこそ分かる。 8年を共にした、ヒポグリフたちだから。 私は窓を開け放ち、首を突き出した。 騎士団の詰め所がある方向へ首をひねると、ゆらゆらと赤い光が列をなして、移動しているのが見えた。 5分以内に、ヒポグリフたちとの接触するであろう距離。 その後には、応援の冒険者たちが集まる。 確実に殺される。 騎士団と冒険者の威信をかけて、町中に現れた魔物を討伐するだろう。 「逃げろぉぉッ!」 これでは届かない。 窓から半身を投げ出して、再びヒポグリフたちへ叫んだ。 「逃げろ!殺されるぞ!」 ようやく声が届いたのか、彼らの顔がこちらに向けられた。 身振りに合わせて、私はまた叫んだ。 向こうへ行けと、騎士団たちの灯りと逆方向を示したら、ヒポグリフたちは急降下をはじめた。 しかも、まっすぐに私のもとへ飛んでくるではないか。 「こっちじゃない!」 必死に叫ぶも、彼らは意に介さず。 バサリバサリと滞空しながら、1頭のヒポグリフが顔を近づけてきた。 ひと目見て、あの母ヒポグリフであると分かった。 「早く逃げろ、殺されるぞ!」 「ピィピィ」
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