飼育員のオッサン、魔物に拐われて画家になる

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こちらは無灯火、一方で騎士たちは灯りを焚いているから、どちらに分があるかは明白だ。 「……真っすぐだ!」 私は騎士から遠ざかるように、進行方向を指さした。 ヒポグリフたちは、私の身振りを一瞥すると「ピィピィ」と鳴いて、強く羽ばたいた。 冷たい風にさらされる私は、ヒポグリフの背に乗り、視界いっぱいに広がる月夜の海を謳歌していた。 我が物顔で泳ぐヒポグリフたちは、これまでの鬱憤を晴らすかのように翼を広げている。 「どうして私のところへ来たんだい?」 「ピィピィ」 「逃げた先でも飼育員が必要だって?なるほどな。やはりお前たちは頭が良いな」 「ピィピィ!」 「まずは、住むところを探そう。少なくとも国外が望ましい。ヒポグリフの厩舎つき物件を売りに出してる国……あてはあるかい?」 「ピィピィ」 「だろうな。私も聞いたことがない。ああそうだ!国境を越えたところに山があるんだ。そこに小屋を建てるのはどうだろうか。せっかく厩舎から出たんだから、自由に山を駆け回って、空を飛びたいだろう?」 「ピィピィ」 「よし決まりだ。まずは山へ。それから私は、麓の町で交渉をして、山小屋を建ててもらい、食料もどうにか山まで運んでもらえるよう手配しなければな」 「ピィピィ!」 「……それから、そうだなあ」 「ピィ」 「絵を売ってみようと思う」 「ピィ!」 「まあ道楽みたいなものさ」 「ピィピィ!」 「それから、もっと意思疎通できるようになりたいな。なにを言っているのかさっぱりだ。まあお互い様だな」 「ピィ!」 ◇◇◇ ヒポグリフ脱走事件から数年後。 バーバトン公爵家の執務室にて、書類に視線を落とす行政長官は、難しい顔をしていた。 「……再開するのですか」 その書類には【飼育課再開に係る単年度予算詳細】との題が添えられ、大きな数字が所狭しと並んでいた。 「魔物への対策は報酬制度で十分な成果を上げておりますぞ閣下」 行政長官が視線を送ったのは、ワイン片手に真剣な顔をする、バーバトン公爵だった。 執事に抱えさせた絵を眺める彼は、首をひねる。 「つまらんな。弱々しいヘタレた筆致が気に食わん。配置も絶望的。希望という題名は、皮肉としか思えん。次だ」 執事は後方のテーブルに額を置き、隣に並ぶ剥き出しのキャンバスを掴んだ。 「閣下……」
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