飼育員のオッサン、魔物に拐われて画家になる

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だが断定されていない彼の真実もあった。 その一つが、故郷へ戻らなかった原因だ。 故郷を離れた後、一度も故郷へ戻ることはしなかった事が知られているが、その原因に関する部分は、証拠らしきものがなく、書籍で面白おかしく考察された。 バーバトン公爵との不仲であるとか、元妻への恨みであるとか、絵を盗まれた怒りや治安の悪さに辟易していただとか。 そんな折、バーバトン公爵家はとある手紙を公表した。 マーク・B・フォーヴィー直筆の手紙である。 「ジュリアとアダンが眠る場所から離れるわけにはいかないのです。ご容赦ください」 ジュリア、アダンは、バーバトン公爵領から逃げ出したヒポグリフの内、2頭の名前であり、彼と彼女が亡くなり埋められた山から離れられないという意味であった。 この事実が知られ、とある出版社からマーク・B・フォーヴィーに関する書籍の改訂版が発売され、またまた大ヒットとなった。 その出版社は売上の一部を、バーバトン公爵領の飼育課へ寄付した。 実はこの社長は、以前から定期的に寄付を行っており、その理由について、自叙伝でこう語っていた。 ヒポグリフたちへの愛を見習い、魔物と人間の関係が発展するよう、少しでも貢献たい、と。 そこで、心酔するマーク・B・フォーヴィーについても、こう回顧している。 「かつての盗みが、私の人生を一変させた。 その日、たまたま入った無施錠の家は、質素で味気ない老人の住処であった。 そんな中、ガラクタのように置かれていた絵たちに、私は魅了された。 ハートが震えたのは、後にも先にもあれっきりだ。妻にさえ、あれほどの震えが起きることはなかったというのに。 この究極の魔法を、世間に知らしめるためにどうしたらいいか、私は必死に考えてこの出版社を立ち上げたのだ。 貧しさで言い訳をする私を、真っ当にしてくれた絵に、私は一生をかけて恩を返したいと思ったのだ」 盗っ人から出版社の社長になった彼は、晩年のマーク・B・フォーヴィーから招待を受けて、彼の小屋へと赴いた時のことも書いている。 もちろんこの時点では、自叙伝は発売されておらず、マーク・B・フォーヴィーは、彼が絵を盗んだ張本人とは知らなかった。 その証拠に 「フォーヴィーさんは、単なる熱心なファンとして、私を迎え入れた」と自叙伝に書いている。 小屋に到着してすぐ、彼はかつての罪を告白したそうだ。
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