飼育員のオッサン、魔物に拐われて画家になる

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去り際に「すまんな」と言っていたが、私自身、何に怒っているのか分からないのだから、課長の言葉が誰に向けられての謝罪なのか理解に苦しんだ。 ◇◇◇ 厩舎に入ると、5つの区画があって、それぞれの格子の向こうには、8年もの歳月を共にした魔物たちがいる。 体は馬のようで、顔と翼は獰猛な猛禽類のような。 ヒポグリフという魔物は、一見すると恐ろしい。 飼育課に転属して初日は、あまりにも恐ろしいので餌をあげられなかった。近づいたら格子をぶち破って襲われるのではと。 しかし彼らは、頭が良い。 私の怯えや不安を察してか、翌日からはあまり目を合わせないようにしてくれた。 ヤギ肉を持って厩舎に入ると、ギロリと手元を睨まれたが、暴れたりはせずに伏せたまま動かなかった。 餌をもらうために欲を抑え、私を導いたのだ。 たった2日にして、魔物のイメージを転換することになった。 彼らの知性を知った私は、3日目には観察するようになった。 日誌には事細かにヒポグリフの特徴を書き記し、図解して詳述することもしばしば。 それから1週間経った頃、ようやく飼育課本来の仕事を思い出した。 飼育課発足の経緯は至極単純で、頻発する魔物被害対策の一環である。バーバトン公爵家の肝いりで、魔物の生態研究と家畜化を目的としており、私はヒポグリフ担当の飼育員。 生態研究や家畜化については専門家が行うから、私がすべきことはヒポグリフたちの日々を観察し、世話をすること。 つまり、世話をしながらヒポグリフたちの状態をつぶさに把握し、専門家たちが研究を行えるよう整えればいいわけで、1週間と少ししてようやく、専門家たちを呼び寄せることになった。 だが上手くはいかなかった。 生態研究という名の反応調査では、人間側に怪我人が出て危うく死者まで出そうになった。 研究員を名乗る学者が引き連れて来た冒険者が、ヒポグリフを攻撃するのだから、当然と言えば当然である。 幸いにも私は小屋にいたから無傷で済んだが、現場に居合わせた研究員たちは二度とこの厩舎に来ることはなかった。 家畜化にしても、ヒポグリフたちを上手く交配させることができず、運良く一頭のメスが妊娠したこともあったが、子供は生まれ落ちてすぐに息を引き取った。 現場にいた私は、衝撃を受けた。
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