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凛也からの拒絶は、私の足裏を地に擦らせる。絶望だ。
めぐみとかいう女が腹立たしい。ちらりと目にした黒髪に憎悪をこめた。私はすべてを投げうって凛也に尽くしたのに。私がナンバーワンにした凛也を横取りして。
店へと引き返すことにした。待ち伏せをして、牙からの声を待つ。次は顔だ。めぐみの顔を頭ごと狩らせる。口に笑みを刻みながら、私は踵を返した。
私の行く手を遮るように、男が二人、足をとめていた。ともに目つきが鋭い。
「鈴木ミカさんですね」
いきなりフルネームで呼ばれた。二人がそろって身分証を提示する。刑事だった。
私を捕まえに来たんだ。
冷たい汗が背中を伝う。逃げても男の足には敵わない。観念したが、まったく予想外の問いを受けた。牙のことだった。
犯人の目星はまるでついていない。
街の防犯カメラには、襲撃の瞬間が映っていた。
突然、被害者の体がなくなるので、どう考えていいのか警察も困っている。
刑事たちの言葉を要約すると、こういうことだった。
「あなたが、五つの録画すべてに映っているのです。なにか知っていますか」
私は首を振り、目の前で人が血まみれになって驚いた、とだけ伝えた。
これで終わりになるかと思ったが違った。二人の刑事が、申し合わせたように私へと目を据える。
「ホストクラブに足繁く通っているようですね。よくお金が続きますね」
膝が震えた。やはり、横領を知っているのだ。牙の聞き取りは、声をかけるきっかけで、横領が本命なのだ。
「安いコースで楽しんでいますから」
見え見えの嘘をつく。この場での連行を覚悟したが、刑事はあっさりと背を向けた。
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