つ ぎ

3/9
前へ
/9ページ
次へ
 今日のシャンパンタワーは二十四段のスクエアー。メニューにはない特別なガラスの塔だ。これで凛也が月間トップに立てると聞いたから、無理をして金を用意した。トップは初めて。ベストテンに入ったこともない男を、私の力でナンバーワンへと押し上げるのは快感だった。  自分の勤める銀行から金を借りるのは悪手だ。住宅ローンならともかく、ホストクラブのために借金。理由はもちろん誤魔化す。  だが、二十代半ばの未婚女性が借金をすること自体が、銀行では問題なのだ。クレカや消費者金融からでも、職場にバレるとろくなことにならない。  どうせろくなことにならないのなら、職場の金に手を付けた方が良い。バレなければ、返さずに済むのだから。  私はついに、会社の金を横領したのだ。  なのに。  会計そばの小さな椅子席で、ヘルプのホスト相手に笑っている女に凛也は目を向けた。スリムな小娘だった。ショートの髪を金色に染めているのが、軽薄さの極みだ。「後で俺が」とヘルプに凛也が耳打ちしたのが聞こえてしまった。  凛也の笑顔に手を振り、私はその場を去った。と見せかけ、すぐに取って返した。店の出入り口を見張る。  金髪ショートへの憎しみは、一時間では消えなかった。扉が開き、凛也が金髪の腰に腕を回しているのを見たら、血が沸騰した。  あとをつける。金に染めた髪はネオンの光を受け、赤や黄に色を変える。密着した黒のパンツ越しに、丸く形のいいお尻がくりくりと動く。聞こえないかな、と期待する。 「腰」  よし、来た。私の数歩前で小気味よく動く丸い肉と、くびれた線を見詰める。  金髪女は声を出さずに死んだ。腹で千切れた体と、足が二本転がっている。歩道でのたうつ腸はネオンの光をのせ、赤や黄にまたたいていた。濃い血と、臓物のにおいが鼻を突く。  私は走った。夜も遅いのに、女ひとりで焼肉屋に飛びこむ。ホルモンを頼み、むさぼり食った。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加