01:憂鬱モーニング

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 わたしだって、こんな自ら千佳くんを手放すようなこと言いたくない。なにもできないふりして、甘やかされて、ずっとお世話されたい。  でも──、 「千佳くん、好きな人いるの?」 「……いる」  脳裏によぎったのは、過去のやりとり。  千佳くんに好きな人がいると知っているのに、わたしは幼なじみを笠に着て甘えてる。とても狡いことだ。  優しい幼なじみは、あの日(・・・)の罪悪感や責任感から、そばにいてくれているだけなのにね。 「眠いから余計なこと考えんだよ。寝ろ。怖いものからは、俺が守ってやるから」  腕の中で、もぞもぞ顔を上げると、千佳くんの濃褐色な瞳と目が合った。  真っ直ぐな双眸に頷いてしまいそうで、わたしは目を逸らす。すると、下げた視線の先、千佳くんの腕に残る傷跡が見えてしまった。 「……痛い?」 「もう痛くねぇよ。俺のせいだしな」 「ううん、わたしのせいだよ」 「違うだろ、間違えんな。あの犯罪者のクソ野郎が元凶だ」  痛々しい傷跡をさする。  わたしを守ろうとして、できた傷。  じっと傷跡を見つめていれば、目元を手で覆われて隠された。視界が真っ暗。魘われる睡魔に負けて、目を閉じれば、おでこに柔らかい感触がする。 「いまの、なに……?」 「悪夢を見ないおまじない」 「……おまじない?」 「そうだよ。──おやすみ、のの」  おやすみ、千佳くん。  柔らかい感触が、くちびるにも触れた。
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