01:憂鬱モーニング

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 無言のわたしの頭を、千佳くんがぽふんぽふん撫でている。ちいさいときから、泣いてグズるわたしを宥めるのは千佳くんだった。いまは泣いてないけど。 「ちかくん、あのさ……」  電話の相手にも、こういうことしてたらやだな。 「キスの練習、わたしでしてもいいよ」 「…………は?」  千佳くんの低音の声が、部屋に響いた。  自分でも、なにをいってるのかわからない。  わたしは俯いてごにょごにょとわけのわからない言い分を続けて、悪手だと気づいても止められなかった。 「すきなひとと、失敗しないように」 「のの、何言って──」 「幼なじみだから、ノーカンだよ」  いい夢くらい、みたっていいでしょ?  けれど、パッと顔を上げた先、──息を呑む。 「逃げるなら、今しかねぇよ?」  顎を掬われて、お互いの吐息が感じられるくらい顔が近づいた。  暗闇の中で、整った顔立ちの千佳くんの輪郭がはっきりと線を帯びていて、心臓が警鐘を鳴らす。  逃げる、という選択肢はなかった。 「子どものお遊びとは違う」 「うん」 「泣いてもやめてやらないけど」 「泣かない」 「────ノーカンにしたら、許さねぇ」  腰が砕けそうになる声が、耳元を掠める。  わたしが頷く前に、柔らかな唇は音もなく重なった。
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