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だけど、顔を上げてみれば、なぜかスタジオ内にいる全員が硬直して、静まり返っている。
え、わたし、挨拶まちがえた?
「ち、ちかくん……」
おろおろと隣の千佳くんを見上げて、助けを求める。
わたしの頭をぽふん、と一撫でした千佳くんは、呆れるようにため息を吐いてから、麗くんと一緒に固まる人たちを解凍させた。
「ったく、緊張してるモデルをびびらせるな」
「世紀の美少女に見惚れるのもわかるけど、挨拶を無視するのはよくないね?」
ふたりの指摘により「すみません!」と「よろしくお願いします!」が、いっぺんに向けられる。
あちこちから挨拶されて、目が回りそうだ。あたりまえなんだけど、わたしに視線が注目してるし、隅っこに隠れてしまいたい。
千佳くんと麗くんが、あれは外部のカメラマンとそのアシスタント、ヘアメイク、スタイリスト。内部のパタンナー、SE、と早口で紹介していくので必死に頭に顔と名前をメモ。
最後、今回のコラボ相手である有名なフリーランスのデザイナーさんが到着したようなので、再びご挨拶。
「オ〜〜マイガァァァ〜〜〜ッッッ!!」
「ンワッ!?」
しようとしたのだが、両脇に手を差し込まれて持ち上げられた。
足が床から離れて、ぷらんと揺れる。
「きみは天才!! ボクのイメージ通り! かわいい! 母国に持ち帰りたい!! ねえ、ボクのワイフになる?」
「ち、ち、ちかくんっ」
「なりません。返してください」
「エ〜〜〜、ケチ」
パーソナルスペースのバクだ、この人。
千佳くんに回収されてひっつくわたしと、デザイナーさんを殴る麗くん。
びっくりの連続で、もう疲労困憊だよ。
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