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「凄い、セット……」
「ふふ、褒めて頂き光栄です。既製品がなくて、今回は手作りしたものが多かったですから」
「て、手作り……!?」
空間スタイリストだと名刺を渡してきた男の人は、物腰が柔らかい。
今回のテーマは〝妖精と夜のお部屋ピクニック〟だそうだ。
目元を隠すための小物は、神話に出てくる生き物の角のようなものを小さな花で装飾し、被り物として用意されている。
「ライティング、どうすか?」
「問題ないです」
試し撮りしているカメラマンと画面を確認しながら会話する千佳くん。経営以外に、ディレクターも兼任してるらしい。
指示された通り、ティピーテントの入口、クッションに囲まれて座ったわたしは、被り物を被せられて深呼吸した。
いよいよ、はじまる。
「―――撮影開始します、よろしくお願いします」
千佳くんの声が、スタジオに響いた。
その瞬間、空気がガラリと変わる。これまで談笑していた人たちが、真剣な顔付きで、自分の仕事をこなしていく。
遊びじゃない。誰もが、本気。
「(アーティストでしょ、わたしは)」
素人だから、なんて言い訳は通用しないよ。
向けられるレンズと対峙して、シャッターが切られる度、一枚一枚、全力でモデルとして向き合った。
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