03:怖々イブニング

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 世に出るのが数枚だとしても、何百枚も撮るため、撮影は数時間に渡る。 「モニター確認お願いします」 「大丈夫です。このまま何枚か撮ってください」 「ポージング変えます。身体を右に、足は崩して」 「ヘア直し入ります」  ポーズを変えれば、ヘアや小物も直す。  もう何度シャッターを切られ、照明を当てられ、お直しをされただろう。それでも楽しい。ものづくりを本気でやっている人たちの輪に、わたしはいるのだ。  ねえ、千佳くん。  わたし、あなたの特別になりたい。 「────……美しいな」  誰かが、呟いた。  被り物の隙間から、愛しい彼を眺め、たとえ顔が見えなくても想いを滲ませる。  ちゃんと言葉にして届けるから、今はこれだけ。 「んー、ポージング変更後がいいね」 「ですね。全部かわいいけど」 「幻想的なセットも相まって、リアル妖精」  モニターに集まる人たちが、感想を言い合っている。  そして、ちょうど空が茜色に染まる頃、撮影は終了した。 「撮影終了です、お疲れ様でした」  千佳くんの一言で、ピンッと張り詰めていた空気が緩む。 「ありがとうございましたー!」 「よーっしゃ! おつかれさまです!」 「はー、今回の現場さいこー」  長時間の拘束で疲れたけど、どうにかやり切った。  皆がそれぞれ機材や小物を片付けていく中、近づいてきた千佳くんに、わたしは勢いよく抱きついた。
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