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世に出るのが数枚だとしても、何百枚も撮るため、撮影は数時間に渡る。
「モニター確認お願いします」
「大丈夫です。このまま何枚か撮ってください」
「ポージング変えます。身体を右に、足は崩して」
「ヘア直し入ります」
ポーズを変えれば、ヘアや小物も直す。
もう何度シャッターを切られ、照明を当てられ、お直しをされただろう。それでも楽しい。ものづくりを本気でやっている人たちの輪に、わたしはいるのだ。
ねえ、千佳くん。
わたし、あなたの特別になりたい。
「────……美しいな」
誰かが、呟いた。
被り物の隙間から、愛しい彼を眺め、たとえ顔が見えなくても想いを滲ませる。
ちゃんと言葉にして届けるから、今はこれだけ。
「んー、ポージング変更後がいいね」
「ですね。全部かわいいけど」
「幻想的なセットも相まって、リアル妖精」
モニターに集まる人たちが、感想を言い合っている。
そして、ちょうど空が茜色に染まる頃、撮影は終了した。
「撮影終了です、お疲れ様でした」
千佳くんの一言で、ピンッと張り詰めていた空気が緩む。
「ありがとうございましたー!」
「よーっしゃ! おつかれさまです!」
「はー、今回の現場さいこー」
長時間の拘束で疲れたけど、どうにかやり切った。
皆がそれぞれ機材や小物を片付けていく中、近づいてきた千佳くんに、わたしは勢いよく抱きついた。
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