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◇
人生初の居酒屋。
大学生や社会人で賑わっていて、アルコールの入った笑い声や話し声が、右からも左からも聞こえる。
テーブルには、焼き鳥や唐揚げ、枝豆、だし巻き玉子などの定番メニューが並んでいて、どれから食べようと悩んでるうちに、乾杯の音頭がされた。
襖で仕切られている個室みたいな席で、主役のように真ん中に座らされたわたしは、千佳くんと麗くんの間に挟まりながら、ノンアルをちびちび。
なにもかも、引きこもりにはハードルが高い。
「のーのちゃん、どれ食べたい? 俺が取るよ」
「んん、唐揚げ……?」
「唐揚げね。はい、あーん」
自分の箸あるんだけどな。麗くんも過保護だ。
食べさせてもらうか迷ってると、わたしの代わりに千佳くんが食べた。そしてなぜか「ん」と自分の箸で唐揚げをわたしの口元に差し出してくる。
「自分で食べれるよ」
「知ってる」
「は〜、器ちっせぇ」
「黙れ」
このふたり、ほんとに仲良いんだよね?
言い合いしてるふたりを傍目に、わたしは辺りを見渡してみる。個室にしてくれたのは配慮なのかな。人目が少ないおかげで、フードを外せる。
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