03:怖々イブニング

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 奈良さんの熱弁に相槌を打つわたしは、内容を半分くらいしか理解できなかったけど、ほんとうに服が好きなことだけはわかった。  ひと通り話し終えた奈良さんが「語っちゃってすみません」と謝ってくるので、あわてて首を横に振る。 「美麗が推してるから任せてたけど、素人使うって聞いて耳を疑ったんです。いくら服がよくても、消費者に〝知って〟もらわないと、服は買ってもらえない」 「……」 「だからイメージに合うモデルって大事で、当日までどうなるか不安だったんですが、杞憂でしたね」  奈良さんの本音は、当然のものだ。  これでも、オブラートに包んで話してくれたはず。たぶん、携わる人たち、全員が、わたしの存在を危惧していた。  容姿が合格ラインに到達していたからって、モデルの仕事が務まるわけじゃない。  しかも、今回は服がメイン。  わたしは、服を最大限までよく魅せて、添え物に徹しないといけなかった。 「俺の見る目に間違いはなかったってこ〜と」 「ちょ、麗くん!」  謝るか反省しないといけない場面なのに、呑気な麗くんは奈良さんに得意げな顔を向ける。 「ふふ。美麗って呼ばせないあたり、ののさんに相当心許してるんだね」  え、心許してる?  隣の麗くんを見上げるも、本人はグラスを片手に機嫌が良さそうで、なにも答えてはくれなかった。
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