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奈良さんの熱弁に相槌を打つわたしは、内容を半分くらいしか理解できなかったけど、ほんとうに服が好きなことだけはわかった。
ひと通り話し終えた奈良さんが「語っちゃってすみません」と謝ってくるので、あわてて首を横に振る。
「美麗が推してるから任せてたけど、素人使うって聞いて耳を疑ったんです。いくら服がよくても、消費者に〝知って〟もらわないと、服は買ってもらえない」
「……」
「だからイメージに合うモデルって大事で、当日までどうなるか不安だったんですが、杞憂でしたね」
奈良さんの本音は、当然のものだ。
これでも、オブラートに包んで話してくれたはず。たぶん、携わる人たち、全員が、わたしの存在を危惧していた。
容姿が合格ラインに到達していたからって、モデルの仕事が務まるわけじゃない。
しかも、今回は服がメイン。
わたしは、服を最大限までよく魅せて、添え物に徹しないといけなかった。
「俺の見る目に間違いはなかったってこ〜と」
「ちょ、麗くん!」
謝るか反省しないといけない場面なのに、呑気な麗くんは奈良さんに得意げな顔を向ける。
「ふふ。美麗って呼ばせないあたり、ののさんに相当心許してるんだね」
え、心許してる?
隣の麗くんを見上げるも、本人はグラスを片手に機嫌が良さそうで、なにも答えてはくれなかった。
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