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「清の時代を凝縮して堪能できる小説ですよね!」
「ラストシーン、鳥肌立たなかった?」
「立ちました! もう、えええええ~! って感じでした!」
二人とも調べ物の手が止まっていた。
「ちなみに、登場人物誰が好き?」
「印象深いのは、西太后でした。昔、映画で酷すぎる西太后を見たことがあって、怖い人だと思ってましたが、『蒼穹の昴』では、とてもチャーミングですよね。頭もいいけれど、少女のような可愛さがあって、それでいて国思いで、子供思い。けれど個人的に好きなのは李鴻章なんです」
「マジ? 俺も、李鴻章! これぞ中国の武人という感じで、かっこいい」
「すごく冷静で、清廉潔白で、西太后も一目置く存在でしたよね」
「趣味が合うな」
今日初めて会話をする人なのに、同じ本が好きというだけで、なんだか昔からの知り合いのような感覚さえした。
「佐川さんは、二年生だから、俺のいくつ下かいな。俺、三年やけど、実は、一浪して、一留してるんよね」
「私も一浪してますよ」
「そうなの? 予備校とか行った?」
「はい、青葉学園」
「え? マジ? 俺も。特待生制度で安く行けたから」
あれ? ということは、同じ県出身?
「広末先輩は、どこ高校出身ですか?」
「修優館」
「え?」
高校も同じだった。
こんなに偶然が重なることあるんかいな。
「佐川さんは、俺が三年の時、一年やったとかな?」
珍しく昼を過ぎても研究室に私たちのほかに誰も来ない。それもまた不思議なことだった。
「はい、そうです。そしたら、吉住先輩と一緒の学年だなあ」
私が呟くと、
「なんで吉住知っとると?」
と広末先輩は大きな声を上げた。
何かがおかしい。私の中で、鐘がゴーンゴーンと鳴り出した。その時は気づかなかったけれど、それは教会の鐘に似ていた。
「えっと、私文芸部と新聞部掛け持ちしてたんですけど、吉住先輩は新聞部じゃないのによく新聞部に来られていて……」
「ああ、それは吉住が、新川さんが好きだったから」
「え、新川部長? そうなんですか?」
この日、私たちは、レジュメの準備を再開してからも、なんだかすっかり打ち解けてしまい、高校の話などで盛り上がった。
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