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 一冊の本だった。されど運命の本だった。 「ありがとうね」  と夫となった広末先輩と、本の表紙を撫でる。  私たちはそれぞれ、中国文学とは関係のない職についた。中国語も今では単語が少しわかるくらいだ。  それでも大学の四年間、惹かれに惹かれた中国のことだけを勉強し、憧れの故宮に行って、当時の息遣いを感じられたことは、私の幸せな経験だった。何より広末先輩と出会えた。この本なしの運命なんて考えられない。 「あ、蹴った。男の子だから元気だね」  私の胎内に宿る子の名前はすでに決まっている。  「広章(ひろあき)」李鴻章からとった名だ。                  了   
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