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高校生になって、自転車通学をするようになり、楽しみができた。
友人と本屋に寄ることだ。
部活仲間の田辺さゆりとは、本好き、絵を描くのが好き、という共通点があって仲良くなった。
私は文系。さゆりは理系。
私は感情的で、感傷的なのに、さゆりは理論的で、前向き。
私は惚れやすく冷めやすくて、さゆりは恋を知らない。
合うような合わないような二人だったけれど、毎日途中まで一緒に下校した。そして、毎日のように本屋に寄った。
当時の私がはまっていたのは、ライトノベルの類で、さゆりの影響でマンガもよく読むようになった。
活字は好き。けれど、純文学は読んでいないし、もっぱらさらさらと文字がマンガになるような小説を読んで、自分は読書好きだと思っていた。
「桃花、今日も本屋行く?」
「行く!」
「でも、ピアノの先生に、寄り道しないで帰って練習しろって怒られたんでしょ?」
さゆりの言葉に、ぎくりとしたが、
「大丈夫大丈夫。ピアノだけ練習しても、技術は上がっても、表現力は上がんないよ。マンガ読むのも本読むのも勉強だよ、たぶん」
ピアノが嫌いだったわけではないし、音楽はむしろ好き。けれど、クラシックだけを勉強するのにはうんざりしていた高二の私は、こうして、先生に怒られながらもピアノに専念することはなく、文芸部という部活も、本屋への寄り道もやめなかった。先生には音大に行くように言われていたが、自分の腕では音大に行っても職に就けないのではという漠然とした不安もあった。
「桃花さ、ほんとに音大行くの?」
「うーん。そうみたい。でもさ、先生の言うこと、なんだか理解できなくなってきて。一曲に毎日6時間練習しろとか無理じゃない? なんか、私の目指す楽しい音楽とは違う気がするんだよね」
「そんなで進路決めて大丈夫なん?」
さゆりは医者になる夢があって、一年のときから医学部一筋だった。
一方で私はいつもどこか逃げ道を作ろうとしていた気がする。
もう少し真面目に練習すれば音大行ける。とか。無理だったら、とりあえず就職率よさそうな学部に入ればいい。とか。
そして、心のどこかで、さゆりに劣等感も感じていた。はっきりと自分の目標に向かって努力を惜しまない彼女に。
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