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「え? 桃花、進路決めたん?」 「うん。中国文学」  私の返事に、さゆりは怪訝そうな顔になった。 「は? なんで?」 「中国のこともっと知りたいんだ」 「急に?」 「うん。あの本、歴史小説やったんよ。あんな人たちが実在してたなんて。いまだになんだか体が熱い。勉強して、中国行ってみたい」 「まあ、いんじゃない? 進路決まらんとやる気もでんしね」  何かを決めるのが苦手な私が、一日で決断した進路だった。  それからはとにかく勉強をした。  勉強すればするほど、学力が足りないのがわかってくる。  これでは受からん。  体重がまた減った。  前期試験で第一志望のA大学を受け、後期試験で、ランクを下げたB大学を受けた。けれど、中国文学科はB大学にはなかった。  私はB大学には受かったけれど、A大学は落ちた。  スタートが遅かった割にはB大学に受かったのだ。以前の私ならば、B大学に行っただろう。浪人すれば、一つ下の弟、達也と同学年になってしまうというのもあった。  でも。 「桃花、もちろんB大学に行くわよね」  経済的にも苦しいことになるため、母は有無を言わせない勢いでそう言った。 「お母さん、ごめんなさい。浪人させてください。予備校は、特待生で入れる安いところにします。A大学に行かせてください」  私はそれまで進路で親に逆らったことはなかった。  けれど、私は本気で頭を下げた。そんな私に父は、 「一年間、浪人するのは大変だぞ。それでもやるというならやりなさい」  と言ってくれた。  予備校までは自転車で40分。それでも毎日私は自転車をとばして通った。黒板消しのバイトを引き受けて、テキスト代も浮かせた。  それでも、母も弟も、なにかにつけて私に、 「浪人の身やろ?」  と言ったけれど、私はとにかく中国文学を学びたいという思いだけで、必死で勉強した。
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