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医大に入ったさゆりからは、定期的に電話があった。
さゆりの電話には、元気づけられるとともに、自分が遅れをとったと感じさせられた。
医大だからというのもあっただろう。それでも、さゆりから聞く大学の話は、私の想像を超えた世界だったからだ。
「私、受かるかいな」
「桃花必死で勉強してるやん。模試の順位もかなり上がっとるんやろ? もっと自信もっていいよ」
私はさゆりと予備校仲間に励まされながら、入試当日を迎えた。
当時、センター試験と呼ばれた試験で、私は好成績を上げた。
A大学はA判定とまではいかないけれど、受かるのではと言われた。
ところが、その後の筆記試験で、私は苦手な英語がまったくわからず、前期試験でまた落ちた。
「桃花。志望大学、変えなさい」
母が言う気持ちもわかる。後期で落ちれば、私大に通わなければならない。
けれど、私は後期試験も願書をA大で出した。
翌日から小論文の勉強にとりかかった。後期試験は、センター試験の結果と小論文で合否が決まるからだった。
試験前日。
予備校から自転車で帰りながら、私は思った。
人事を尽くして天命を待つというではないか。もう、やることはやった。これで落ちるなら、神様が私大に行け言うとんのやろ。
した選択も、結果も、すべては自分にとっていい道に続いていると思いたい。
そんな悟りの境地のような気分で自転車をこぐと、風が優しく背中を押してくれるような感じがした。
入試当日。
これでいいんかいな?
試験終了20分前に小論文を書き終えた私は、ぼんやりとそう思っていた。
一番後ろの席だった私は、前に座る受験生の回答用紙が白紙に近いのが見えてしまっていた。もともと文芸部で文章を書くことに抵抗がなく、小論文の勉強もしていた私と違って、他の受験生たちは、小論文に苦戦していたのだ。
受かるかもしれん。
私の心臓が期待に高鳴った。
そうして、私は後期試験でA大学に入ったのだった。
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