3

1/5
前へ
/10ページ
次へ

3

 文学部は一年生の時に教養過程があり、その成績と、学科の定員数に対して志望者がどれほどいるかで、学科が決まる。それ以前の問題として、単位による足切りがあり、単位が足りないと二年生に上がれない。  他の学部が二年の夏休み明けに学科が決まることを考えると、やや文学部は厳しい。  せっかくA大に受かったのだ。中国文学科に入れないなんてことは、絶対嫌だ。  私は一年生の時、バイトもしてはいたけれど、勉強に主に取り組んだ。  学科選びのための見学の時は2回とも中国文学科に行った。そして、二年生に上がるとき、めでたく中国文学科に入ることができた。  国文や英文に比べるとマイナーな中文は、個性的な人ばかりで、自分も変わり者だと自覚のある私は、逆に安心した。  ゼミの数が他の学科より多くて厳しいのは、入ってからわかったことだった。学部生の数に対して、ゼミが多いのだ。中文の生徒たちは、毎日研究室で誰かがゼミの準備をしていて、それも一人ではない。研究室に行けば、ワイワイ話しながらも、自分の勉強をする先輩たちが何人かいた。その中で、一人、研究室に来ても見かけない先輩がいた。 「ああ、広末くんのことかな? 彼はね、私たちもよくわからない、不思議な人なのよね。朝刊を配るバイトをはじめ、バイトばかりしてる苦学生みたいなんだけどね」  全ての同級生と、先輩、院生と一通り会話して、どんな人かの情報を日々ストックしていた私の中で、情報のない広末先輩はどんな人だろうと興味が膨らんだ。けれど、彼の姿を見ないまま、ニヶ月が経った。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加