無視するな

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日が沈んでいき、外はだんだんと暗くなっていく。 そんな中、帰宅の途に着く私は、我が家を見て唖然とする。 「玄関のドアが開けっ放しじゃないか」 思わずそう口ずさむ。 妻や子どもたちは何をやってるんだ。 一家の主として怒りたいところだけど、頭ごなしに怒っても仕方がない。 何か理由があるかもしれない。 そう考えた私は、とりあえず玄関の前に立ち「ただいま」と声をかける。 玄関には息子がいた。 框に腰掛けて、靴を履いている。 「今から出かけるのか?玄関のドア開けっ放しだけど、家の中は暑いのか?」 息子から返事はない。それどころか私と目も合わせてくれない。 「答えてくれないのか」 そう言っても、息子は私の存在を消してるかのように無視をする。 「おい、なんか答えろよ」 「飲み会に行ってくる」 息子は、私の言葉をかき消すぐらいに大きな声を出し、何食わぬ顔で出かけていった。 玄関のドアがゆっくりと閉まる 「カチッ」 その音がどことなく切なかった。 へこんでも仕方がない。 私は、もう一度「ただいま」と言って家の中へと進む。 キッチンでキャベツの千切りをしている妻がいた。 「タンタンタンタン」とその音が響き渡る。 忙しくしているのは分かるが、私を無視しなくてもいいだろう。 せめて「お帰りなさい」と言ってくれたっていいだろう。 「ただいま」 「ピー、ピー」 私の言葉を遮るかのように、電子レンジから音が鳴った。 妻は何食わぬ顔で、電子レンジから解凍した牛肉を取り出す。 「パタン」 電子レンジの開閉口が閉まる。 その音がとても虚しかった。 ショックだけど仕方がない。 私は玄関へと戻る。 その時、玄関のドアが開き「ただいま」と声がした。 娘が帰って来た。 「お帰り、早かったね、もうすぐご飯出来るから待ってて」 キッチンの方から妻の声が聞こえる。 「うん」 娘が妻の声に反応する。 何で私にはお帰りと言ってくれないんだ。 私も帰って来たんだぞ。 憤りが隠せなかったその時、玄関を上がってすぐ隣りにある畳の部屋から「お父さんただいま」と声がした。 娘の声だ。 嬉しくなった私は、娘に「お帰り」と言うが、反応がない。 それどころか、娘は私の顔を見ていない。 明らかに違う方向を見ていた。 私は、娘が見ている方向に目をやる。
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