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本を探して
「僕んちには小説とかが千冊あるんだ!」
「へぇスゴイなぁ」
小学三年生の秋。放課後を包む夕焼けの中、明は得意そうに胸を張る。
「て言ってもお父さんが集めた本だけど。それでも毎日読むの楽しいよ!」
明の話を聞いている雄介はうんうんと頷く。明の父親は明が小学生にあがる前に亡くなっている。記憶も朧気な父の背中を追って本の虫になっているのを雄介も理解している。
「そうだ! 雄介に貸してあげるよ! タイトルのリスト作ってくるからそれから選んで!」
「え? 俺は読書は……」
「絶対楽しいから! 近いうちにリスト作り上げるから! じゃあね!」
二人が別れる交差点。明はぶんぶんと手を振りながら駆けていく。
「読書かぁ。まぁたまにはいいかぁ」
雄介に読書の習慣はない。明があれだけ楽しそうに読書の話をするのも今のところ理解できていない。ただ明は大切な友達でずっと一緒にいる。その親友をがっかりさせたくはない。
「まぁ読書してれば、あんまり勉強しろって言われなくてもいいかもな」
雄介も夕焼けの町を歩いて帰っていく。その背中には少しだけワクワクが見えていた。
一週間後の放課後。明と雄介は並んで校門を出る。少しだけ肌寒く感じる秋。コートを着るにはまだ早い。
「雄介、約束してたのやるよ!」
校門を抜けたあとに明は突然ランドセルを背中から下ろし一冊のノートを取り出した。
「僕の千冊! 一緒に読んでいこう」
「へぇ。でもタイトルだけで面白そうなの分かるかな?」
「つまんなくたっていいじゃん! 二人で読んでいったらその話も楽しいよ!」
底抜けに明るい明に雄介はつい苦笑いを浮かべてしまう。
「そうだな。帰ったらじっくり読んで気になったの何冊か貸してもらうよ」
「絶対だよ!」
ご機嫌の明。その笑顔も見ていると雄介もつい楽しくなる。
「読んで国語の成績あがったらいいなぁ」
「そこはちゃんと勉強しなよ」
「勉強苦手なんだよ」
くくくと二人で笑い合う。こうやってずっと二人でいるんだろうなと。
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