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翌日。明は学校に来なかった。雄介も昨夜あった事件を知っていたので、それほど驚きはなかった。ただ悔しかった。
明の住む家は昨夜、火事になり全焼した。それを知って夜更けに明の家まで母親と一緒に駆けていったが、野次馬と消防に阻まれて明の顔を見ることはできなかった。明は昨日あんなに楽しそうに本の話をしていたのに。全焼ということは、明が自慢にしていた千冊の本も焼けてしまっただろう。
明は病院にいると担任から話があった。ただ、すぐのお見舞いは控えてくれとの話もあった。おそらく明の住所も変わるだろうとの話だ。燃えてしまったところには、もう住めない。明が遠くに行く可能性もある。
雄介は担任の話を聞きながら奥歯を噛みしめる。俺にできることはないかと。明の力になってやりたい。いつ会えるかも分からないけど。
雄介は放課後、一目散に家まで駆けて行って、コツコツ貯めていた貯金箱の小銭を握りしめてまた家を出る。向かうは本屋。
息を切らして本屋の扉をくぐり、小銭の他に握りしめていた千冊の本のリストを開く。文庫本のコーナーを巡り、同じタイトルがないかと目を皿のようにして棚を巡る。
「……これからだ」
明の本のリストの最初にあったコナン・ドイルの緋色の研究を手に取る。
「俺の小遣いじゃまだ一冊しか買えない……。でも読まなきゃ……」
レジに小銭を広げて店員に本の値段と一緒のお金を渡す。
「ありがとうございます!」
店員に深々頭を下げてから雄介はまた家まで駆けて行って、帰宅するなり緋色の研究を読み始めた。
ちゃんとした読書などはじめてだ。字を追っていくのは根気のいる作業だった。それでも明がいつもワクワクして読書の話をするのが少しだけ分かる気がした。
読書とは想像力を掻き立てるもの。これはこうじゃないか。ああじゃないかと想像しながらの読書は確かに楽しいのかも知れない。
きりのいいところまで読んでから、居間でテレビを見ていた母親に声をかけに行く。
「母さん、何かお手伝いできない?」
「あら、突然どうしたの?」
「うん……。お小遣いが欲しいんだ……」
「欲しいものでもあるの? 高いもの?」
「そんな高くはないけど……沢山欲しいんだ……」
「何が欲しいの?」
「……本……」
母親はフッと笑ってみせる。
「そう言えば明くんも本が好きだったね。いいよ。ただし毎日お手伝いしてね。そしたら一月に三冊買ってあげる」
「本当!? ありがとう!」
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