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明とは、たまに電話で話す。話すときは父親か母親のスマホでだ。
「そっちどう?」
「悪くはないよ。雄介がいないのは寂しいけど」
「俺も明がいないとつまんないよ」
そんな風にはじめて、どうでもいいことを長々話す。明は本の話題を出さないし、雄介も本を集めていることを話さない。
「もしかしたら家を建て直すって話はどうなったの?」
「ちょっと時間かかるみたい。でも建てたって前よりずっと小さい家になるって」
「可能性はあるんだ。俺、待ってるよ。でなきゃ俺がそっち行っちゃうよ!」
「大丈夫だよ。本当に無理なら母さんも無理って言うし」
希望はある。それでも雄介の心は寂しい。何度も電話をしているのに明は一度も本の話題を出さない。父親の思い出があっさりと燃えてしまったことがショックなのだろう。火事の原因は煙草のポイ捨てだそうだ。それを考えると雄介は腹が立つ。
「せめて中学は同じとこ通いたいよな」
「そうだねぇ」
毎回そんな言葉で締められる通話。ただ、中学に入るまでに千冊集めるのは無理だと雄介は分かっている。もっと時間をかけないと。
雄介が小学生の間に集めた本は五百冊を越した。本を集める代わりにゲームもおもちゃも一切買わなかった。ただ本だけ集め、集めた本を全て読んで、雄介の生活は本に占められていた。その時には雄介は読書の魅力にどっぷりとハマっていた。苦手だった勉強も読書で新しいことを知る喜びに目覚めたおかげに苦ではなくなった。
ただ雄介にとって残念な報せがあった。明がこっちに戻ってくるのは中学卒業後になる見込みだというのだ。時は経ったが雄介にとっての一番の親友は明に変わりない。雄介が一心不乱に本を集めているのは明のためだ。
何回も書き直した千冊のリストには赤ペンのチェックの他にすでに読んだマークとして青い線も入れてある。明がこっちに帰ってきたとき、千冊の本の話題に困らないように、明に見せつけるためにやっていることだ。
五百集めるのに三年かかった。ならば、あと三年あれば千はいくはずだと雄介はリストを見ながらゴールを見据えていた。
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