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ときには県外の明の家に遊びに行くこともある。そこでも雄介の心中は寂しくなる。明の部屋には本棚がない。いくつか読書した形跡はあるが、目にする本は千冊のリストにはないものだ。明自身が千冊を遠ざけている。
雄介が高校受験の勉強を手掛けだした頃、ついに明のもとあった家の土地に工事が入った。その様子を見つけた雄介はその晩、すぐに明に電話をした。
「戻ってくるのか?」
「うん。おじいちゃんおばあちゃんがこっちにいろって言うのを説得するのに、こんな時間かかったけどさ。母さんもそっちがいいんだって。まぁそっちに戻れるの高校生になってからだけど、高校は雄介と同じとこ行く予定だし」
「良かった……。本当良かった。もう戻って来ないんじゃないかと……」
「あはは。戻る予定だって最初から言ってたじゃん。おじいちゃんおばあちゃんは、母子二人の生活でまたなんかあったらって心配してたけどさ。大体あの火事は運が悪かったんだよ」
「そうだな。あんなこと、そうそうあってたまるか」
その日から雄介はさらに集中して受験勉強に向かう。その隙を見て本も集める。明の家が火事にあった秋がまた巡る。千冊まで五十冊を切っていた。あと少しで目標を達成できる。雄介は千冊目に買う本をもう決めていた。それは高校受験に受かった日に買おうと決めている。
長い時間を使って集めた千冊。それを明に見せる日を雄介はすでに待ち遠しく感じていた。
「雄介、流石にもう本棚を買おう。安いものなら千冊入る棚を買ってやる」
年明けに父親がそう申し出てくれた。
「でも……、本を沢山買ってもらったのに棚まで悪いよ……」
「そうは言っても段ボールに詰めているだけじゃ本が可哀想だ。明くんに見せるとしても丁寧に扱ってないと怒られるんじゃないか?」
父親も母親も詳しくは聞いていないが、雄介が本を集める理由は明のためだとすでに気付いている。本を買いに行くとき、雄介は千冊のリストのノートを必ず持っている。気付かないほうがおかしかった。
「そうかな……」
「それにな、もう千冊に届くんだろう? 今、何冊あるんだ?」
「九百九十九冊……」
「あと一冊だ。これから本を買うとしても、それは雄介が読みたいと思う本だろう? 誰かのためじゃない本。父さんたちも雄介の誰かのために協力してきたのだから、最後にもう一つ協力させてくれ」
「ありがとう……」
つい、涙が流れてしまった。明の父親との思い出を取り返すための日々。それはもうすぐ終わる。
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