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棚は父親と一緒に組み立てて、組み立て終わった棚に雄介は一冊一冊本を並べていく。並べていて明が幼いときに僕の家には千冊の本があるんだと嬉しそうに言ったのを思い出す。
「今ならあの気持ち分かるなぁ」
「どんな気持ちだ?」
「父さんには内緒だよ。でも嬉しくて楽しいってことだよ」
本の部屋から父は作業を終えて出ていき、雄介は部屋の真ん中でぼんやりと本を眺めていた。
「俺、九百九十九冊も読んだんだ……」
きっと明も千冊全部は読めていない。今度はこちらが貸すよと言う番だ。
「楽しみだな」
部屋の真ん中に仰向けに寝っ転がる。
「それより先に受験かぁ」
それに関しても雄介は自信があった。
受験当日。雄介は会場で明と会う。
「じゃあ頑張ろうぜ」
拳と拳をこんとぶつけて、テストに向かう。明も自信ありげな目をしていた。受験が近くなってからの電話は勉強の話ばかりだった。お互いに分からないことを教え合う。その日々を乗り越えてきたために二人とも自信があった。
結果なんなく二人は合格を射止めた。明の新しい家は三月末に完成予定だ。明はちゃんと帰って来る。合格を知ったその日、雄介は本屋へと足を運んだ。千冊目の本を買うために。本を買うためにいくつもの本屋を訪れた。古本屋を訪れた。親はときにネットも駆使してくれたが、最後の一冊はどうしても本屋で買いたかった。
明が千冊の本の中で最初に読んだと言っていた本。それは星の王子さま。雄介は明の最初を最後に選んだ。
明がこの町に帰って来るまでにじっくりと読んで話したい。千冊すべて読んだと。
星の王子さまは、どこの本屋でも見かけた。この六年で本に関する知識も身についた。それでも、レジに星の王子さまを置いたとき、つい手が震えた。
「カバーはお付けしますか?」
「結構です」
会計を終えて、店を出たとき雄介の目に涙が溢れた。
「あれ……なんでだよ……」
やっと取り返した明の父親との思い出。泣くにはまだ早いのに涙は止まらなかった。
「まだ終わってないのに……」
明に見せなければ。その日が来ないと終わりじゃない。六年も明に内緒で集めた本。それは雄介にとってもうかけがえのない宝物になっていた。
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