本を探して

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 三月の暮れ。雄介一家は明一家の引っ越しの手伝いをするために明の新居を訪れていた。 「またよろしくお願いします」  明の母親は雄介の両親に頭を下げる。 「こちらこそまたよろしくお願いします」  両親もまた明一家の帰還を喜んでいる。作業が終わったら、雄介の家で明たちにご馳走をする予定だ。雄介が明に千冊の本をお披露目するのは、そのときだ。もちろん両親には口止めしてある。明を驚かせたい喜ばせたい。長い旅路が今日終わる。 「ちょっと雄介、張り切り過ぎじゃない?」 「そりゃ張り切るよ! 明とじっくり話せる久しぶりの機会が短くなったらイヤだもの!」 「これから毎日顔合わせるのにさぁ」 「それでもだよ」  明にとってもイヤな気持ちはしない。桜の咲く季節につい晴れやかな気持ちになる。 「じゃあ頑張ろうか」  作業は夕暮れには終わり、二つの一家は揃って雄介の家に歩いて向かう。久しぶりに町並みを見たいと明が言い出したからだ。 「あんまり変わってないなぁ。おかげで道は分かりやすいけど」 「そりゃ六七年で劇的に変わるわけないじゃんな」 「そうだなぁ。劇的に変わったの雄介の背くらいだよ」 「それは明もだろ?」  両親たちは、雄介と明が先を歩いてはしゃぐのを笑顔で見守っている。明の背中は戻ってきた良かったと言っているようにも見える。  雄介の家に着くなり雄介の母親はお寿司を取り寄せた。届くまで時間がある。リビングでくつろいでいる明に雄介は声をかける。 「明、見せたいものがあるんだ」 「え? 何?」 「来てくれ」  明に内緒で集めた千冊。明の父親との思い出を取り返すために集めた千冊。雄介にとってかけがえのない千冊。  本の部屋に向かう雄介は明は追っていく。 「何? 何があるの?」  雄介は部屋に入り灯りをつける。まだ夕暮れだが、ちゃんと見えなかったらイヤだった。 「これは……」 「集めた。明が俺に渡してくれた千冊のリスト。全部集めて全部読んだ。リストも作り直した。今度は俺が明に貸す番だ」  明の胸に幼い頃の思い出が蘇る。顔もよく覚えていない父親。ただ優しかったのを覚えている。 「この本全部、明にあげるよ」  その言葉だけ鮮明に覚えている。 「馬鹿だなあ」 「そりゃ俺は馬鹿かも知れないけど……」 「違う……。馬鹿なのは僕だ。燃えてしまったからって、父さんとの思い出に背を向けていた。リスト作ったんなら僕が集め直すべきだったのに……。雄介、ごめん、ありがとう。父さんとの思い出を雄介が取り返してくれたなんて……」  明の目からボロボロと涙が落ちる。雄介の目にも涙が滲む。 「俺さ、明に諦めて欲しくなかったんだよ。燃えちゃったけど、お父さんの思い出に蓋をしていたんじゃないかって。集めて本当に良かった。この千冊は明と俺の友情の証な」 「くさいこと言うなよ」  雄介は明に拳を向ける。明はその拳に拳を合わせる。 「僕は千冊全部読んでないから、借りて読んで雄介に追いつくよ。そして沢山話そう」 「もちろんだ」
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