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満ちて欠ける
次第に身体の力が抜ける。精神は身体を手放すが、決して自由にはならない。
僕を繋ぎ止めるのは一粒の錠剤。直径0.7ミリ。たったそれだけの存在に生かされ続け、緩やかに殺され続ける。
ベンゾジアゼピン受容体は恋する少女のように、手放せば欲し、受け入れれば拒否する。
永遠に続く輪廻の中に閉じ込められ、ただ同じ事を繰り返し続ける。
「もう、行かなくては」
その言葉を皮切りに、鬱に別れを告げ、躁に出会う。
君は今度、いつまで僕の中に居てくれるだろうか。君はとても気まぐれで、身勝手なやつだ。
僕が手放したあの子はいつも寄り添い、一緒に苦しんでくれる。なのに僕は、いつも君を跳ね避けて、遠ざける。
躁はいつも、僕を振り回す。
鬱はいつも、僕のそばにいてくれる。
周りは「もうやめておけ」というのに、僕はまた君に会う為に、机の上に散りばめられた一錠を取る。
君が僕を見放すまで、僕はこれを繰り返す。
別れはいつかやってくる。
その事から目を背けながら、僕は僕のファムファタールに会いに行く。
僕を一番理解する、君を裏切って。
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