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「鈴宮が……好きだから、心配で」
え、中村があたしを好き? 信じられないんだけど。
中村をつい見てしまった。中村は自身が描いている絵の少女と同じ表情をしていた。
あたしは、好きでもない苦いコーヒーを無理矢理飲み干したみたいに嫌な気持ちになった。
「冗談やめてよ」
「冗談なもんか。この絵だって、俺は鈴宮をモデルにして描いてるんだぞ。それくらい好きなんだからな」
自分をモデルにして描いてるなんて、本当に……
「気持ち悪い」
「やめろ、そんなふうに言うな」
悲しげな顔をした中村。
その顔に本気でイラっとして、怒りが爆発しそうになった瞬間と同時に先生が戻ってきた。
「会議から帰ってきましたよ。ただいま戻りました」
先生の隣に居る女の子が気になった。
茶髪のショートボブがよく似合う、眼鏡をかけた可愛らしい雰囲気。
大分小柄な子だ。先生と比べると背が小さい。
「ここが美術室! いいですね、絵の具の匂いが創作意欲掻き立てられる〜!」
「中村君、涼宮さん。彼女は田中絵音さんです。僕が直々に美術部に入らないかとスカウトしました」
田中絵音さん、そういやあたしと同じクラスだ。
姿を見て思い出せなかったけど、名前で思い出した。あんまり関わりがないから、覚えてなかった。
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