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しばらくして話し終えたのか、田中さんはあたしたちの所に来た。
「中村君の絵、なかなかグレートですね。このなんとも悲しみに満ち溢れてる女の子がまるで、今の鈴宮さんみたいな顔でいいですね。素晴らしい」
「それ、褒めてんのか」
中村が困ったような表情を浮かべている。
あたしが悲しげな顔をしてるとか勝手なこと言わないでほしい。
確かに不機嫌な顔をしてるのは自分でも分かるけど。
「わたくしは人様の絵を貶したりなんて致しませぬぞ」
「なら褒め言葉として受け取るけど」
田中さんは眼鏡を中指でくいっとあげながら、ニコニコ笑ってる。
楽しそうにしている感じが、妙にあたしをいらつかせる。
あたしと視線があって、彼女は更に笑顔になった。
「鈴宮さん、なんか創作に悩んでますな。中村君の絵みたいな顔になってる。どれどれ。うーん、赤だけなのに、色んな色に見えて面白いですが、何か足りないですな」
田中さんに何か足りないと言われた。
あたしの絵の何が分かるの?
「派手さというか、奇抜さに欠けますね。だから、もう少し大胆に行っちゃってもいいかもですよ」
「アドバイスありがとう。ねえ、田中さんって絵を描いてどれくらい?」
「うーん、BLに目覚めたのが中学1年の時なので、3年くらいですかね」
「じゃあ、まだまだ素人なんだ」
素人ごときにあたしの絵の良さとか、足りない所が分かるはずない。きっと思いつきで適当に言ったんだ。
あたしの絵を分かってくれるのは先生だけ。
先生を見ると、目を見開いて驚いた顔をしていた。
「絵音さんは素人とは思えませんね。僕も確かに鈴宮さんの絵は思い切りというか、大胆さに欠けるなと」
「細谷大先生もそう感じてましたか。わたくしと大先生は感覚が鋭いから、やっぱり分かりますよね」
得意げに田中さんがそう言ったのを、あたしは唇を噛み締めて聞いていた。悔しさが心に滲む。
ーーあんな子になんか負けたくない。あたしの大好きな先生を取らないでーー
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