第一章./閑話

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 エンジンがつくと、スゥ────とコンクリート上をなだらかに、滑るように  動きだす黒塗りの高級車。  住宅街なので、住宅と住宅が面する(かん)の公道が少々、狭隘(きょうあい)であるにもかかわらず、だ。  ボンネットの長い高級車が走行するには、幅狭(はばせま)な急斜面になっているも  そのまま、私たちのまえを通り過ぎようとする車体。  ────そして。  私のまえを、ちょうど横切るスレスレで、後部座席側の窓越しにコチラに向けられた  淑やかな雰囲気をもつ女性からの、  ・・・・・・・・一瞥。  それはあきらかに。  私のことを、  敵視していた含みがあった────…ようにおもう。  ほんの一瞬。  たかがその折にほんの一瞬、視線が絡んだぐらいだったから、  もしかしたら私の、思い違い。という可能性も無きにしも(あら)ず。だけれど。  『────聞いてンのかおタンこなす貧乳』  「ぉ……タンこなす、じゃないです」  『なンだ『貧乳』は否定しねーんだな』  ・・・・・・いや。  もう、この際そんな言葉遊びにいつも通りの切り返しをする  ココロのゆとりも無いんだが、  なんて独白は内心、呟きつつ。  片耳に文明機器たるスマホを当てながらの私に、母さんが『電話?』とジェスチャーで  聞いてきたので、  一度、頷き  「先、中はいってて」という旨を伝えると、家の中にはいっていく母さんの  後ろ姿を見送って、私はもう一度、スマホを耳に当てなおした。  さっきから耳から離していても聞こえてくる揶揄(からか)うような声音は若干、  私の様子を懸念しての、アーウェイさんなりの気遣いだと  もう、わかっているのでコチラも、いつもの調子を取り戻すべく。  なんとか、  深呼吸をして通常運転を試みた。  「……すみません。忙しいのに、大したこと、ないこと連絡してしまって」  『あー…べつにそれは良い。……で?気は済んだか?』  「…はい、大丈夫。です。  ────…あの、カーフェイ、さん。には」  『ンあぁ言ってねぇーよ。アイツが聞いたらスっ飛んでお前ンところ行っちまうだろうしな。  …今は書類見て雑務に励んでっから安心しろ』  ・・・・・・・良、かった。  彼に伝わってないことにホッ、と安堵の息を漏らす。  ────…と言うのも。  以前に一度、ほんとに大したことでは無いことでカーフェイさんに連絡しちゃったことがあって。  それが原因で、  あの人はSPや護衛のみならず、構成員までもを付けずに単身で私の元へ  来たことがあったのはいまだに、記憶に鮮明だ。
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