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エンジンがつくと、スゥ────とコンクリート上をなだらかに、滑るように
動きだす黒塗りの高級車。
住宅街なので、住宅と住宅が面する間の公道が少々、狭隘であるにもかかわらず、だ。
ボンネットの長い高級車が走行するには、幅狭な急斜面になっているも
そのまま、私たちのまえを通り過ぎようとする車体。
────そして。
私のまえを、ちょうど横切るスレスレで、後部座席側の窓越しにコチラに向けられた
淑やかな雰囲気をもつ女性からの、
・・・・・・・・一瞥。
それはあきらかに。
私のことを、
敵視していた含みがあった────…ようにおもう。
ほんの一瞬。
たかがその折にほんの一瞬、視線が絡んだぐらいだったから、
もしかしたら私の、思い違い。という可能性も無きにしも非ず。だけれど。
『────聞いてンのかおタンこなす貧乳』
「ぉ……タンこなす、じゃないです」
『なンだ『貧乳』は否定しねーんだな』
・・・・・・いや。
もう、この際そんな言葉遊びにいつも通りの切り返しをする
ココロのゆとりも無いんだが、
なんて独白は内心、呟きつつ。
片耳に文明機器たるスマホを当てながらの私に、母さんが『電話?』とジェスチャーで
聞いてきたので、
一度、頷き
「先、中はいってて」という旨を伝えると、家の中にはいっていく母さんの
後ろ姿を見送って、私はもう一度、スマホを耳に当てなおした。
さっきから耳から離していても聞こえてくる揶揄うような声音は若干、
私の様子を懸念しての、アーウェイさんなりの気遣いだと
もう、わかっているのでコチラも、いつもの調子を取り戻すべく。
なんとか、
深呼吸をして通常運転を試みた。
「……すみません。忙しいのに、大したこと、ないこと連絡してしまって」
『あー…べつにそれは良い。……で?気は済んだか?』
「…はい、大丈夫。です。
────…あの、カーフェイ、さん。には」
『ンあぁ言ってねぇーよ。アイツが聞いたらスっ飛んでお前ンところ行っちまうだろうしな。
…今は書類見て雑務に励んでっから安心しろ』
・・・・・・・良、かった。
彼に伝わってないことにホッ、と安堵の息を漏らす。
────…と言うのも。
以前に一度、ほんとに大したことでは無いことでカーフェイさんに連絡しちゃったことがあって。
それが原因で、
あの人はSPや護衛のみならず、構成員までもを付けずに単身で私の元へ
来たことがあったのはいまだに、記憶に鮮明だ。
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