花の火

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 6歳のあたしは、無邪気だった。  緑豊かな田んぼが続いている一本道を、麦わら帽子を被って元気に駆けていた。よくわかんない長い草とか木の棒とか持って、ほんと無邪気。  今じゃ田舎と呼ばれる人口の少ない農村で、毎日呑気に過ごしていた。 「──(きく)ちゃん、あそぼ!」  大きな声で、名前を呼ぶ。  だだっ広い田んぼを抜けた先、【松葉(まつば)】と表札が出てる古い家屋があって、そこに住む〝菊ちゃん〟があたしは大好きだった。  その家には、高齢のおじいちゃんとおばあちゃんが住んでいて、あるとき身体の弱かった〝菊ちゃん〟が引っ越してきたのが始まり。  〝菊ちゃん〟は7歳年上の女の子。  療養するのが目的で、祖父母の住む田舎にやってきたと言っていたけど、当時のあたしには療養の意味がわからなかった。 「この絵本を読んで」 「いいよ」 「ピアノ弾けるの?聞きたい」 「いいよ」  優しくて、何でもできる、綺麗なお姉ちゃん。  都会からやってきたと聞いていたこともあって、憧れる感情もひっくるめて、年上の〝菊ちゃん〟に懐いた。
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