恋の人

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 仰天しすぎて、逆に冷静になる。  じっとあたしの顔をガン見してくる柳に「冷蔵庫開けっ放し」と注意して、腕が緩んだ瞬間に忍者の如くすり抜けて、部屋の隅っこまで逃げた。 「何その反応、冷蔵庫閉めたけど」 「うん」 「俺んとこ、戻ってきたら」 「遠慮しとく」  逃げたのに、のこのこと戻るわけがない。  数秒、無言で対峙するあたしたち。折れたのは柳の方で、小さな吐息を零した後、床に転がる食材たちを冷蔵庫の中に収納した。 「座んないの」 「……座る」  立ってるのも不自然だ。座ろう。 「……あのさ、言いたいことあったんだけど」  ぽすん。  あたしが隣に腰を下ろしたタイミングで、口を開いた柳が不安になる前置きをする。  怒らせた? と思いつつも、視線だけ向けると「両手出して」と言われて、渋々両手を器のようにして柳に差し出した。  ──ころん。 「え?」  掌の上には、鍵。  間違いなく、柳の部屋の鍵。  これは、どういう意図? 「合鍵、くれるってこと?」 「ちょっと違う」 「?」 「この部屋に住んでほしい」 「…………え?」  脳内に〝同棲〟の二文字が浮かんだ。
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