花の火

3/22
前へ
/30ページ
次へ
 とくに、夏が好きだったあたしは、菊ちゃんと涼しい縁側でスイカを食べたり、畳の上でごろんと寝っ転がって本を読んだり、扇風機の前で「あー」と声を出して遊んだことを、鮮明に覚えている。  菊ちゃんは身体が弱かったから、走り回ったり虫を捕まえたりなんて遊びはしなかったけど、それでも楽しかった。 「中学の3年間だけ、こっちにいるんだ」  線の細い穏やかな菊ちゃんは、ずっと一緒にいたいと願うあたしに、眉を下げて言った。  鈴のような音で笑う人だった。  都会から来たなら、田舎の娯楽のなさに辟易してもおかしくないのに、あたしみたいな子どもとも楽しそうに遊んでくれる菊ちゃんは、濁ってない透明のような性格。  澄んでいて、心地よくて、安らぐ。  あたしは、ほんとうに、菊ちゃんが大好きだった。 「菊ちゃん、大好きだよ」  その言葉は幼心に似ていたけど、実際は清らかな恋心で、無垢な子どもを盾に欲求を満たしていた。  いっしょに遊んで、  いっしょに寝て、  いっしょに勉強して、  兎角するうちに、3年という短い猶予は、駆け足で訪れた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

153人が本棚に入れています
本棚に追加