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「ローズ、ヴァイオレット!」
「……あら。ジーンじゃない」
ローズ、ヴァイオレット、デイジーが踊り終わり、ステージから降りると男たちが彼女ふたりを呼んだ。ローズとヴァイオレットは呼ばれた方向に目線を向ける。ヴァイオレットは声の主がこの店の常連、ユージーン・スコットだということに気が付いた。ヒールの靴を鳴らしながらユージーンの座る席へと歩いて行くヴァイオレット。
ローズは呼ばれなかったデイジーが気になり、黒髪を一瞥したがデイジーは至って平気なようで、他の席へと歩いて行ってしまう。
ローズとヴァイオレットはフラッパーであるが、成熟した大人の女性の魅力を持っている。対してデイジーは早熟であるが未熟で少女のあどけなさがある。
踊り子三姉妹としてステージ下で酒を呷りながら3人を見るのは楽しいが、一夜を共にしたいと考えるとローズ、ヴァイオレットとデイジー、という風に二手に男の好みが分かれてしまうのが常であった。ローズ、ヴァイオレットを狙う人間とデイジーを狙う人間は明らかにタイプが違っていた。
ヴァイオレットが席に辿り着く前に、ユージーンがバンケットスタッフに椅子をふたつ用意するように頼み、ローズとヴァイオレットが座る席を華麗に作り出す。ユージーンが椅子から立ち上がりヴァイオレットの手を握り締める。
「やぁ、僕のお姫様。今宵も美しい」
「……ジーン。あなたに会いたかったわ」
ユージーンはヴァイオレットの手の甲にキスを降らせ、その手を引き席へと誘導する。用意された椅子へと座らせ、ヴァイオレットが咥えた煙草に火を灯す。上流階級に相応しいウォール街の証券マンであるユージーン・スコットの目当てがヴァイオレットであることは火を見るより明らかだ。
「ローズ、君も相変わらず美しいよ」
「ありがとう、ユージーン。お世辞でも嬉しいわ。……それで? そちらの方はどなたかしら?」
ヴァイオレットのついでにローズを褒めたユージーン。彼の隣にいる美麗な男性をローズは瞥見した。煙草を咥えた色男は透き通るグレー色の瞳でローズを見つめている。
「あぁ、紹介が遅れたね。……彼はフレデリック・グレー。彼が君と話したいと言っていてね」
「フレッドと呼んでくれ。ローズ、ようやくあなたと話せた。とても光栄だ」
フレデリック・グレーは恭しくローズに頭を下げ、ローズの手を取り挨拶のキスを手の甲に降らせる。フレデリックはユージーンと同様に手を取りローズを椅子に誘導した。社交界に慣れている男だ、とすぐにローズは勘付いた。
ヴァイオレットとユージーンはすぐさまふたりの世界を作り上げ、小声で話をはじめてしまう。そのふたりを一瞥したフレデリックは負けじとローズに近寄る。
「あなた、……なにかパフュームを? とてもいい香りだ」
「ステージに上がる前にパリから届いたのよ。素敵な香でしょ?」
「あぁ、とてもいい贈り物だ」
ローズはフレデリックのその言葉に首を傾げた。たしかに贈り物だが、そんなことは一言も言っていないのだ。ローズは社会的地位もあるし、経済力もある。香水くらい自らで買える。不思議なことを言う男性だ、とローズは思う。
フレデリックはこの見目麗しいローズに男のひとりやふたりいるだろうというのは勘付いていたし、ユージーンからローズには恋人がいると聞かされていたから、てっきり男性からの貢ぎ物だと誤解していた。
「なにか飲むかい?」
「……えぇ、同じ物を」
ローズは魅惑の笑みをフレデリックに向ける。
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