GLUTTONY / curiosity

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* 「……P.T. バーナムって生きているの?」 「彼は素晴らしい実業家だ。……だが、ここは違う人間が手掛けている。彼はバーナム以上のクズだがね」  フレデリックは軽快に笑い、ローズの言葉に否定の意味を込め首を振る。彼がローズに見せたい場所と言い連れて来たのは移動遊園地であった。宝石箱をぶち撒けたような煌びやかな電飾がローズの目を貫く。小さな観覧車やメリーゴーランドが優雅に舞っている。  禁酒法が定められているとは考えられないアルコールの香りがそこら中に漂っている。実際に酒樽の前に恰幅の良い男性が立っており、紙で雑に作られたカップに豪快に酒を注いでいる。そのカップを道ゆく人間に渡していた。フレデリックもそれを手に取り、ローズに渡す。ふにゃり、液体が入る柔らかい紙コップは頑丈ではなく、すでに底が崩れ酒が漏れ出ていた。ローズは中に入るスコッチをすぐに飲み干し、コップを地面に捨てる。 「いい飲みっぷりだ」 「ありがとう。これでもスピークイージーの女よ、軽く見ないでくださる?」  ふふ、っとローズは悪戯に笑い濡れた唇を手の甲で拭う。フレデリックはそんな豪快なローズを見つめ、色香に当てられた。ゆるり、女の頬を撫ぜる。アルコールで濡れた唇を引き寄せ、自らの唇で愛撫した。フレデリックの舌先がローズの唇を這う。 「Hey! ここではやめてくれ」  酒樽の前に立つ男性がローズたちに酒を浴びせながら人払いをする。パンツの裾を酒で汚しながらフレデリックは笑い、ローズの手を取り、その場から離れた。けたけた、笑いながらローズとフレデリックは移動遊園地の奥に入って行く。  ここは普通の遊園地とは毛色が異なった。まさしくローズが先ほど名を出したP.T. バーナムの世界であった。  ローズの前には一台のバイクが存在し、その下には男性が寝そべっている。バイクに轢かれているのに微笑んでいる男性。彼の目の前には『最強の男』という立札が立っている。 「ここは世界に誇るフリークショーの場所だ」  フレデリックはそうローズに囁いた。その間にも『犬面(いぬずら)少年』という立札を首に下げた男の子がふたりの前を通過する。フレデリックはピンッとコインを指先で弾くと少年に金を投げ渡す。犬面少年は高らかに、わん! っとひと声鳴く。彼は顔面に毛を生やしており、そこから犬面少年と名が付いたのだろうとローズは推測した。 「こういう場所に来たことは?」 「……ないわ」  はじめて見るものに目を見開くローズ。そのローズの隣にひとりの男性が立ち、ローズのドレスの裾を引いた。ローズが視線を下に向ける。そこには3フィート3インチほどの背丈の少年が佇んでいた。 「もしかしてブルーム姉妹のローズかい? 一発踊り子とヤッてみたかったんだ、どうだい?」  凡そ100センチメートル程度の身長の男性が腰を振りながらローズを下から眺める。ローズは驚いて言葉を失う。ローズに絡んだ男性は眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな顔をする。 「俺のこと子供だとでも思ったのかよ? なんだブルーム姉妹は素人か。……呆れた」  大きな溜め息を吐く男性にフレデリックは金を渡す。コインを見つめる男性は首を傾げ、ジェスチャーで「もっと寄越せ」と言ってくる。 「彼女に失礼なことを言ったんだ。これで消えな」  ぷっ、ッと地面に唾を吐いた男性はフレデリックの言葉に苛立ちながらもその場から離れていく。
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