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大学生らしい1Kの黒とグレーで統一された部屋。
何度も訪れたことある部屋のベッドで、灯は器用な手つきの柊吾に頬を冷やされていた。
帰ってくるまでは永遠と不満を零していたくせに、着いた途端無言になった柊吾の顔を、灯はどうするべきかと見つめる。
「……怒ってる?」
「怒ってねぇよ。お前には」
「じゃあ誰に?」
「知らね」
むくれてる柊吾は、言いたくないのだろう。
腫れて熱をもってる灯の頬に、タオルで巻いた保冷剤を当てながら、頑なに視線を外してくる。
「今のお前見たら、穂乃果が発狂すんな」
「暴走したら一緒に止めてね」
「……そんなんすっかよ。庇う必要ねぇだろ」
そんなに紫苑が嫌いなのだろうか、と苦笑いした灯は頬の痛みに顔を顰めた。
それを見て、舌打ちをした柊吾は、ぽつり。
「普段なら別れてんだろ、もう」
と、力なく言う。
たしかに、今までなら別れを切り出していた。柊吾の言いたいこともわかる。でも──、
「うちの紫苑くん、かわいいから手放し難くて」
自覚した感情を、無視はできないと悟ってしまった。
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