159人が本棚に入れています
本棚に追加
紫苑は、浮気していなかった。
その事実に、灯は心底安心した。それまで微かに感じていた不安が、すべて、払拭された。
信頼してる柊吾にだからこそ、灯は溜めていた本音を零していく。
「こんな面倒ごといつもならごめんだけど、紫苑くんなら仕方ないかなって。なにも言わず避けることに関しては、今後物申すつもり」
「……」
「紫苑くんだけは、誰にも取られたくないって気づいたから、私も変わろうかなって」
口に出すと、思考はクリアになり、想いが明確になった。
じっ、と無言で見つめてくる柊吾は「は〜〜」と深いため息を灯に向かって吐き出し、保冷剤を当てていた手を下ろす。
それから、セットされた自身のアッシュグレーの髪を乱雑に掻きあげて、独り言のように呟いた。
「かわいいって思ったら負けか」
なんだか、やるせない音色だ。
落ち込んでるのかと、灯が柊吾の顔を顔を覗き込んだら、優しく押し倒されて見下ろされる。
「────最後、餞別に抱かせろよ」
命令的な口調とは裏腹に、触れる手は甘く優しい。
「いいよ」
ただの友達より、少しだけ、特別な存在に、灯は仄かに微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!