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◇
薄手のブランケットに包まる女が、同じベッドの上で小さく寝息を立てている。
「……んん」
頬をぶにっと鷲掴みしても、髪の毛を三つ編みして遊んでも、華奢な腰を引き寄せても、目覚める素振りは微塵もない。
若干唸る声がするくらいだ。
自分の服を着て、自分の匂いをさせて、自分のつけた跡がある女を、柊吾は暗闇の中で見下ろした。
「(安心しきった顔しやがって)」
ひとりごち、起きないのをいいことに女の薬指にサイズのぴったりな指輪をはめてみる。
随分前に、酔っ払いだった柊吾が買ったものだ。
「……ん、とーご、くすぐった、い」
「っ、」
寝てる女で遊びすぎたのか、舌っ足らずに名前を呼ばれて柊吾はビクついた。
不意に、首に回された腕に引き寄せられ「うぐ」と情けない声が漏れ出る。
「……ハァ。俺は一生、お前に振り回されながら生きるんだろーな」
朝なんて、やってくんな。
誰かのものに、なったりすんな。
「あほみてーに、かわいーの」
陳腐で、意気地なしな、男の呟き。
あまやかな音色が、暗闇に吸い込まれていった。
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