159人が本棚に入れています
本棚に追加
天色の空に、雲の峰が漂流している。
そんな晴れやかな朝に、──ゴッ、と似つかわしくない打撃音が響いた。
「……えっ」
人通りの少ない公園。
握りこぶしを解いた柊吾と、殴られた紫苑を前に、蚊帳の外となってる灯はだいぶ混乱する。
邂逅早々に、柊吾が紫苑を殴ったため、止めることもできなかった。
「男の挨拶」
「蛮族の間で流行ってる挨拶の間違いでしょ」
「うっせ」
灯が咎める眼差しを向けても、無視される。
朝、紫苑に〈ちゃんと話をしたい〉と連絡した灯はなぜか一緒に着いてきた柊吾と待ち合わせ場所にやってきたのだが、話す間もなくこれだ。
ふつうに通り魔の犯行。殴られた被害者はずの紫苑がしおらしいのも、意味がわからない。
「コイツが、カスに殴られた分のお返し」
「殴ったって、だれが──……」
「さーな。事情も言い訳も、あとはそっちでやれ。俺のやりたいことはおわったし、帰るわ」
「あの……ありがとう、ごめん」
「……俺、お前嫌いだから礼とかいらね」
灯の背中をポンッと押して、紫苑への態度を最初から最後まで崩さず、柊吾は去っていく。
残された灯と紫苑は、お互いに顔を見合わせ、気まずさを誤魔化すように「おはよ」と普通の挨拶をした。
最初のコメントを投稿しよう!