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ベンチに座った灯は濡らしたハンカチを紫苑の頬に当てて冷やす。されるがままの紫苑は、灯の手当てされた頬を、泣きそうな顔で見つめてきた。
「どうして、怪我……。誰にやられたの?」
「知らない男」
「……俺のせい?」
「違うよ。説明するけど自分のせいとは思わないで」
気まずさを緩和させるために一息。
子犬のようにしょぼくれている紫苑に、誤解がないようひとつずつ、順を追って、灯は説明した。
大人しく聞いていた紫苑だが、話が進むにつれてバツが悪そうに俯く。自分を責めないでと灯が前置きを入れても、ショックが大きかったようで、最終的には小さく蹲ってしまった。
「……俺のせいだ」
「違うって」
「でも知られたら嫌われるかもって、隠そうとしたから……灯ちゃんに辛い思いさせた……」
「知られたらって?何を?」
「……昔の、自分……」
ぽつ、ぽつ、と話していく紫苑の声に覇気はない。
どうやら紫苑には、灯に知られたくない過去があったらしく、だけど鈴木にその隠し事がバレてしまい、秘密にする代わりにデートをしてと要求されて、仕方なく応じたとのこと。
なんとなく事の顛末は理解できたけど、紫苑がそこまでして隠したかったことはなんなのか……。
灯は聞き出すべきか、悩んだ。
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