step.05

12/15
前へ
/99ページ
次へ
 しかし、紫苑は覚悟を決めていたようで、ぎゅっと両手を握りしめた後、スマホの写真を見せてくる。  ぽっちゃりとした身体。長い前髪。漂う陰の空気。 「(……ん? この男の子って)」  明るい日の下。  圧倒的な造形美の紫苑の容姿と、スマホに映し出された男の子の容姿を、灯はまじまじと見比べる。全然似ていない。  似ていない、けど──…… 「紫苑くんが、ふじくん? 私が働いてた喫茶店で、常連だった、あの男の子?」 「……うん」 「は?とんでもない垢抜け」  まさかも、まさか。  弱々しく頷いた紫苑が肯定したことで、灯は大いに混乱した。 「いや! なんで言わないの! ビフォーアフターが違いすぎるから気づけないよ! もうっ、はああ!!?」 「……げ、幻滅した?」 「するわけないじゃん! バカなの!?」  普段は低燃費の灯が、珍しくキレ気味に叫ぶ。  そして、そのままうっかり。 「見た目で好きになったんじゃないし!!」  ………………………………あれ?  勢いに任せて好意を告白した灯は、ワンテンポ遅れて己の失態に気づく。蹲りたくなった。  ぱちくり、紫苑は目を見開いて固まっている。 「す、好き……? えっ? 誰のこと? え?」  お前以外にいるか!  情緒不安定な灯は、脳内で突っ込んだ。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

159人が本棚に入れています
本棚に追加