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ぜぇ、はぁ。
ひとしきり騒いで、我に返る。
そうなると襲ってくるのは羞恥心。じわじわと頬を染めていく灯を見て、紫苑も真っ赤になっていった。
「……」
「……」
お互い、妙な空気感のまま、静寂が流れる。
灯がちらりと紫苑の方を盗み見ると、王子さまのように麗しい姿があって、相当努力したんだなと、改めて感じた。
それならば、灯も勇気を出して頑張らなくては。
慣れない緊張をまとい、灯は口を開く。
「すごい傲慢で、我儘なお願いがあるんだけど」
「ん? なんでも叶えるよ」
「ありがとう。じゃあ、付き合う時の条件、撤回させて」
「……へ? 撤回?」
「そう、撤回」
なぜかここで、鈍感力を発揮する紫苑。わかってないような顔をして、眉をへにょりと下げた。
面倒だが、はっきり伝えるしかないらしい。
「紫苑くんだけが欲しいから、浮気はもうしない。私のこと独り占めしてよ」
ぽかん。
清々しく言い切った灯を、紫苑は間抜けな顔で見つめた。
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