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ゆらゆらと、湯気が昇っていく。
湯船に浸かり、灯を背後から抱きしめる紫苑はよくわからない鼻歌を歌っていて楽しそうだ。
表面の泡を掬った灯が、紫苑に差しだす。察した紫苑がふっと息を吹きかけると、半透明の球体がふわふわ宙に舞った。
「私たち、子どもみたいなことしてる」
シャボン玉のように割れていく泡たち。
ぼんやり灯がそれを眺めていれば、背後の紫苑がなにか閃いたらしい。唐突にお風呂場に声を響かせた。
「ハッ! 灯ちゃんの! 幼少期! みたい! あわよくば写真が欲しい!」
「え、急にどうしたの」
「ごめん、興奮しちゃって」
「いや、欲しいならあげるけど写真くらい。スマホに多分あるし」
「ありがとう大好き。飾るね」
「それはまって」
水を差すようで申し訳ないけど、さすがに飾るはやりすぎである。
飾るのはなし、とはっきり灯が言うと、紫苑はしょぼんとして、灯の肩をあむあむと甘噛みした。
「だめ?」
「かわいい顔してもだめ」
「うーん」
「(しょげちゃった……)」
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